霊峰早池峰山に抱かれながら、世代を超え、地域で大切に受け継がれてきた伝統の舞「早池峰神楽」。
早池峰神楽は大償(おおつぐない)と岳(たけ)の2つの神楽座の総称で、昭和51年(1976年)5月4日、国の重要無形民俗文化財に指定されました。また、平成21年(2009年)9月30日には、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「無形文化遺産代表一覧表」に記載され、人類共通の遺産として世界に認められました。
早池峰神楽の起源
記録資料等は現存していませんが、岳の早池峰神社に文禄4年(1595年)と記された獅子頭があることや、大償に早池峰山の修験先達をつとめた山陰家から伝えられたという長享2年(1488年)の神楽伝授書があることから、その時代にはすでに神楽が存在していたことになり、その初源は南北朝時代にまで遡るものと考えられ、500年以上の伝統をもつ非常に古い神楽であるといわれています。また、岳妙泉寺(早池峰神社)の開設が正安2年(1300年)と伝えられているほど早池峰山信仰の歴史が古く、修験山伏が行った祈祷の舞が神楽となったともいわれています。
また、毎月第2日曜日は、「神楽の日」として岳神楽・大償神楽・八木巻神楽が月交代で演じます。
演目には様々な舞があり、その数は40番以上ともされています。またそれぞれの舞に意味があり、舞う姿にその意味を見出すのも楽しみ方の一つです。
「神楽」の語源
神楽という言葉は、神座(カムクラ・カンザ)からでたものといわれています。神座とは天上におられる神々が降りられた際、身を宿らせるところという意味で、はじめは高い峰や巨木などの自然物を指しましたが、次第に神社などの固定された人造物を指し、やがては場所を移動させて臨時的に設けられたものや面・装束・採物をつけた舞人そのものをも神座と見なすようになり、そこで行われている神楽全体を神楽というようになったと考えられています。
岳神楽と大償神楽
岳神楽
岳神楽が伝承されている岳地区は大迫町の中心部から北東に17km。集落としては最も早池峰山の近くに位置します。岳には早池峰の神を奉る早池峰神社があり、岳神楽はその奉納神楽です。地元では、神楽が下閉伊郡や宮古から法印(山伏)によって伝えられたともいわれていますが、資料が現存しないため伝承の由来は定かではありません。
岳神楽(たけかぐら)は600年以上もの歴史があります。
昔は女の子ばかりの家では、男の子を養子にして神楽(かぐら)を教えたそうです。近くの村を周って神楽(かぐら)をしたり、時には、神楽(かぐら)を教えることもあったそうです。岳神楽(かぐら)で使うお面は耳がありません。これは、大償の神楽(かぐら)とけんかをしたため、といわれています。踊(おど)りの演目(えんもく)は大償神楽(かぐら)と一緒ですが、岳神楽(かぐら)は5拍子(びょうし)の荒々(あらあら)しい踊(おど)りとされています。
大償神楽(かぐら)と合わせて「早池峰神楽(かぐら)」と呼(よ)ばれ、昭和51年に国の重要無形民族文化財第1号に指定されました。1月3日に「舞初(まいぞ)め」12月17日に「舞納(まいおさ)め」が早池峰神社で行われます。「大迫いろはかるた」にも「由緒(ゆいしょ)ある 神楽(かぐら)は 国の文化財」とあります。
早池峰神社
大同2年(807)、藤原鎌足の子孫、兵部卿成房が早池峰山頂に祠を建立したのが始まりといわれます。藩政時代には南部利直公の庇護のもと社殿が建立されました。現存する本殿は内陣柱を中心とした軸組や、軒回りの彫刻・装飾などに慶長期の堅実な手法が残されており、県の有形文化財に指定されています。
岳妙泉寺旧蔵 四天王立像(市指定文化財 江戸時代作)
早池峰神社例大祭
大償神楽
大償神楽の伝承されている大償地区は、岳より12kmほど下流、大迫の中心部からは約5km北に位置します。地区内にある大償神社の奉納神楽です。早池峰開山の祖といわれる田中兵部が建立した田中明神の神主より大償の別当家へ伝えられたものといわれています。
文禄(ぶんろく)4年(1595年)に作られたという獅子頭(ししがしら)があることから、400年以上前から始まっていたようです。岳と大償の神楽(かぐら)は昔から比べられることが多く、「表舞(まい)」と「裏(うら)舞(まい)」とか、「男舞(まい)」と「女舞(まい)」とかいわれていました。また、岳の権現(ごんげん)さんは耳がない、大償の権現(ごんげん)さんは舌がない、といわれていて、このことは使うお面に現れています。
大償神楽(おおつぐないかぐら)は7拍子(びょうし)の踊(おど)りなので、「優雅(ゆうが)な舞(まい)」といわれています。
また、八木沢金山で働いている人達が踊(おど)り始めたといわれる「金堀(かなほ)りの狂言」という演目(えんもく)があります。
この踊(おど)りは、息子が踊(おど)るときは父親が太鼓(たいこ)をたたき、父親が踊(おど)るときは息子が太鼓(たいこ)をたたくというふうに、必ず親子でやるものでした。大償神楽(おおつぐないかぐら)の舞初(まいぞ)めは1月2日に、舞納(まいおさ)めは12月の第3日曜日に「神楽(かぐら)の館(やかた)」で行われます。
岳神楽と大償神楽の違い
岳神楽と大償神楽は、舞の種類に多少の違いがあるものの、筋運びはほとんど同じですが、舞で使用される山の神の面が、大償神楽では「阿(あ)」、岳神楽は「吽(うん)」の形をとっていることから、両神楽が「阿吽(あ・うん)」で対を成しているといわれています。
また、拍子を比較すると、テンポが異なるのが明らかであり、一般的には大償神楽が7拍子、岳神楽が5拍子といわれています。なお、ここでいう「拍子の違い」は、表現技法や演出効果の面からことばで説明できないものを数値化して表現したという説や、現在は6番で構成されている式舞が、古来は大償が7座で、岳が5座だったという説に起因するものなどの諸説があり、単に音楽上のリズムの違いを指すものではありません。
岳神楽は荒々しく勇壮で男舞がよく、大償神楽は優雅な女舞がよいといわれることもありますが、見る人の主観的な判断に左右されるところが強く、はっきりとした相違とはいえないでしょう。
舞の種類
神楽は2間四方にしめ縄を張りめぐらし、一面に幕を張り神座を設けます。
式舞
式舞は、神楽を奉ずるとき最初に必ず舞う6曲の舞のことで、役舞あるいは座舞ともいわれます。浄め招魂、鎮魂、予祝、託宣などを内容として、「鳥舞」「翁舞(白翁の舞)」「三番叟(黒翁の舞)」「八幡舞」「山の神舞」「岩戸開の舞」の順に舞われます。式舞には表舞と裏舞があり、昼夜続けて奉ずる場合には、昼に表舞を、夜は裏舞を奉じるといった使い分けをするようです。
裏式舞
神舞
神々の舞で、神話を内容としている舞で、「尊揃舞(水無月)」「天降り舞(天孫光臨)」「悪神退治」「天熊人五穀」「天照五穀」「三韓」「牛頭天王舞」「水神舞」「五大龍王」「恵比寿舞」などがあります。神舞は、幕内から登場するとき、必ず神の面をつけて登場します。面をつけた舞を「ネリ」といい、人間の体を借りた神の舞です。面をつけた舞手は神霊そのもので、託宣や祈祷をします。また、「舎文」と呼ばれる語りは物語性があり、語り手と舞手でその場面の情景を表します。後段になって舞手は神の面を取り外し、「クヅシ」という華やかな舞に変わります。これは、神に対する感謝の念を表した、人間の喜びの舞であるといわれています。
荒舞
その名のとおり非常に荒々しい舞で、動きが速く、体のさばきの激しいのが特徴です。荒舞は密教や修験道の関わりの強い鎮魂・悪霊退散の舞曲ともいわれておりますが、その由来や内容については神歌や詞章が伝わっていないため、はっきりとしたことは分かっておりません。荒舞には「注連切」「普将舞(諷誦)」「竜天(竜殿舞)」「笹割(笹分け)」「三神」「手剣」などがあります。
座舞
合戦、仇討ちの物語の「鞍馬(鞍馬天狗)」「曽我兄弟」「木曽舞」「屋嶋(八嶋)」や、物語的な「鐘巻(道成寺)」「橋掛」「年寿」「機織」「汐汲(潮汲、塩汲)」「天女舞」「苧環舞」などがあります。物語の組み立てに合わせた舞で、神舞のように面をはずしての「クヅシ」舞はありません。
狂言
狂言は台詞は決まっているものの、それにこだわらずアドリブを入れたり、舞手と観客たちがやりとりするなど、おもしろおかしくストーリーが展開します。昔は民家の座敷などに座を設けて神楽が舞われていたことが多く、当時の娯楽の一つでありました。狂言はその場の機転を利かせることがとても重要とされています。別名「お道化っこ(オドケッコ)」ともいいます。出し物には「狂言田植」「猿引き」「金堀り」「しゅうと見参」「箱根番所」「釣り狂言」「神の沢」「献上」「品物」「狐とり」などがあります。
権現舞
権現舞は、神楽の最後に必ず舞われる、あらゆる災いを退散、調伏させ、人々の安泰を祈祷する舞で、特に格式が高いものとして取り扱われています。権現とは、神の使いの聖獣の獅子としてではなく、神が仮の姿になって現れたことをいい、神の化身として扱っています。この権現様を奉じて、門ごとに権現舞を行い、また神楽を演じたりしています。
花巻暦
大迫郷土文化保存伝習館(愛称:早池峯岳神楽伝承館)
ユネスコ無形文化遺産・早池峰岳神楽 悠久の歴史を伝える
花巻市大迫町には早池峰神楽をはじめとする伝統的な民俗芸能など大切に守られてきた文化財が数多く伝えられています。
早池峰岳神楽は、旧岳妙泉寺の祭祀を預かる「六坊」が代々伝えてきた神楽で、明治時代の廃仏毀釈という苦難の歴史を経て、五百年以上にもわたり伝統の舞を受け継いでいます。
本館は、神楽の衣装や道具類、写真や映像とともに、岳妙泉寺に関する資料を展示し、神楽の歴史的背景についてご紹介します。
また、館内には神楽舞台を備えており、岳神楽衆が普段の練習などに使用しています。
大迫郷土文化保存伝習館「神楽舞台」
岩手県花巻市大迫町で毎月第2日曜日に開催される、東日本唯一の定期神楽公演。岳神楽、大償神楽、八木巻神楽が月替わり公演
岩手県花巻市大迫町で毎月第2日曜日に開催される、東日本唯一の定期神楽公演。 岳神楽、大償神楽、八木巻神楽が月替わり公演。
交通アクセス
神楽の館
ユネスコ無形文化遺産に登録された「大償神楽」「早池峰神楽」のうち「大償神楽舞い始め」「大償神楽春の舞」「大償神社例大祭」「大償神楽舞い納め」が演じられます。雄大な早池峰山とここでした味わえない神楽をご覧いただけます。
開館日
1月2日 大償神楽 舞い初め
4月下旬 大償神楽 春の舞
9月中旬 大償神楽 例大祭
12月中旬 大償神楽 舞納め
入館料 無料
駐車場 有
住所 〒028-3201 岩手県花巻市大迫町内川目第39地割37-2
電話番号/FAX 0198-48-5008
鎹八咫烏 記
伊勢「斎宮」明和町観光大使
協力(順不同)
花巻市 〒025-8601 岩手県花巻市花城町9番30号 電話 0198-24-2111
一般社団法人 花巻観光協会 〒025-0004 岩手県花巻市葛3-183-1 TEL 0198-29-4522
文化庁 〒100-8959 東京都千代田区霞が関3丁目2番2号 電話番号(代表)03(5253)4111
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