国指定重要無形民族文化財・遠山の霜月祭り
遠山の霜月祭りは湯立神楽の古い形態を今も伝承しています。
年も押し迫った十二月、谷の各所からは神楽歌が聞こえてきます。
遠山の霜月祭りのおこり
この祭りがいつ起こったのか、地元の伝承では平安時代の終わりとも鎌倉時代ともいわれますが、定かではありません。
しかし、霜月祭りをおこなう神社の多くが八幡神社であることからすれば、この遠山郷(江儀遠山庄)が 鎌倉時代に鶴岡八幡宮寺(つるがおかはちまんぐうじ)の信州唯一の神料地(しんりょうち)であった歴史と無関係ではなさそうです。
国の重要無形民俗文化財に指定されている遠山の霜月祭りは、上村・南信濃の各神社で湯立神楽が奉納されます。
社殿の中央に設えた釜の上には神座が飾られ、湯を煮えたぎらせて神々に捧げます。
祭りのクライマックスを迎えると天狗などの面が登場し、煮えたぎる湯を素手ではねかけます。
ふりかけられた禊ぎの湯によって、一年の邪悪を払い新しい魂をもらい新たな年を迎えます。
中郷の正八幡宮
様式
中郷の正八幡宮は、旧上村中郷集落の神社です。祭日は12月12日でしたが、平成17年から12月の第1土曜日に改められました。
祭神は、正八幡社(誉田別命 ほんだわけのみこと)や津島神社、源王(げんおう)大神・政王(まさおう)大神・両八幡(先祀・後祀)・住吉明神・日吉明神・一の宮・淀の明神からなる八社神、四面など18柱が、社殿内に並ぶ10宇の祠に個別にまつられています。
さらに境内社として宮天伯、それに社殿の東南西北に両山の神・地の神・尾崎の神・子の神が、ちょうど正八幡宮を守護するかのように配置されています。これは中郷の大きな特徴です。
神社は、伝承では正嘉年間(1257~58)に創建されたもので、最初、西ノ原一帯に点在していた祠を、のちに大宮に納めたといわれています。現在の社殿は平成15年に一新したものですが、神前に祭神の祠が並ぶ形は以前の形を引き継いでいます。
そのため、正八幡社の祠の下部に面箱を納めておいて「お倉開き」のときに取り出します。
上町系の霜月祭りのなかにあって、火災にあった上町・程野がいずれも祭神をまとめて本殿内に納めるのに対して、中郷は古い形を伝えている点で注目できます。
舞殿には2基の土製の竈が設けられ、神前に向かって左が「一の釜」、右が「二の釜」です。その真上には「湯の上飾り」が吊されています。
中郷正八幡宮の神像中
中郷の神名帳 文化13年(1816)
式次第
中郷の祭りは、前日に準備と宵祭り、そして当日は朝から「湯の上飾り」など準備が
あり、昼過ぎから本祭りとなります。
まず「大祭式」をしてから、「座揃(ざぞろえ)」などで祭場を神楽歌によって清め、神々のやってくる道を開いたのち、「 神名帳(じんめいちょう)」を奉読して全国66ヶ国の一宮を迎えて、祈願を「申上」ます。
そして、「 先湯(せんゆ) 」3立と「池大明神の湯」がおこなわれます。
その後、立願によって産土神への一生の奉仕を誓う「神の子」がありますが、これはこの中郷と和田だけに伝わっている儀式です。
「秋葉大神の湯」など集落内にある神々の湯立ての後、夜中の零時過ぎに四面に捧げる湯立て「御一門の湯」となり、このとき神前では面箱を取り出す「御倉開(おくらびらき)」があります。「四つ舞」「襷(たすき)の舞」「羽揃(はぞろえ)の舞」に続いて、「鎮(しず)めの湯」が厳重におこなわれます。
「日月の舞」で招待した一宮をお返し、以後は神社にまつる神々「御座(ござ)の神」の祭りとなって、いよいよ「面」16面の登場です。翌朝を迎えた最後に、「金山(かなやま)の舞」で神々や精霊を追い返して祭りを終えます。
襷の舞御
御座の神
面(おもて)
中郷の正八幡宮の霜月祭りには、16面の面が登場します。そのうち14面は、江戸時
代中期の宝暦(ほうれき)9年(1759)に飯田の仏師4代目井出運正(いでうんしょう)と幸八によって作られたものです。
面箱にはその年号が記され、また面の裏面にも、たとえば源王(げんおう)大神面には「源王大臣宝暦九己卯歳 信劦飯田住大仏師 井出右兵衛 同幸八 拾四面之内作也」という銘があります。
残り2面のうち、火王面は大坂城落城の際に一人の浪人が持ってきたなどという伝承 があり、この1面のみが他の胡粉塗(ごふんぬ)りとは異なって漆塗(うるしぬ)りとなります。 もう1面の津島大神は大正時代に追加奉納されたものです。
神太夫(かんだゆう)・姥(うば)
伊勢参りの途中で神社に立ち寄ったという設定です。姥が氏子たちを祓い、神太夫(爺)が村人との問答の末に、釜を祓い、氏子たちの長寿を祈ります。
そして、湯釜をまわることなく、元来た道を帰ります。それはこの夫婦が日月を表し、まわってしまうと月日が早く過ぎて悪いことがあるとされるからです。
八社神(はっしゃがみ)(遠山氏の御霊(ごりょう))・津島大神
源王大神(げんおうだいじん 遠山遠江守)・政王大神(まさおうだいじん 遠山土佐守)、両八幡(先祀八幡=江戸家老、後祀八幡=国家老)、住吉明神・日吉明神・一の宮・淀の明神(一の宮は遠山土佐守の奥方、他は一族)がゆっくりと舞いながら湯釜を2周します。最後に津島大神が登場して、軽く飛び跳ねて舞います。
四面(よおもて)
最初に水王(みずのおう)・土王(つちのおう)の2面が登場して、水王は一の釜、土王は二の釜で、煮えたぎる湯を素手で周囲にはねかけます。
これが終わると、木王(きのおう)と火王(ひのおう)が登場し、4面がそろうと、湯釜の周囲の四辺をはげしく飛び回ります。
宮天伯(武内宿禰)
最後に武内宿禰が弓矢をもって登場し、「天地が未だ固まっていない泥沼の中を堅いところを探りながら歩く」という特殊な歩き方で進み、矢を五方に射って邪悪を祓い除けます。最後に拝殿前で釜を向き、「天下泰平 五穀豊穣 目出度叶う」と面の中で唱えてから退場します。
神太夫・姥
八社神
四面(土王・水王)
宮天伯
中郷・正八幡宮と周辺マップ
『千と千尋の神隠し』の原点、遠山霜月まつり
霜月祭りの現場で、必ずささやかれる「噂」があります。
「この祭りがね、あの『千と千尋の神隠し』の原点なんだって・・」
鎹八咫烏 記
伊勢「斎宮」明和町観光大使
協力(順不同)
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